1. はじめに
本稿は、外国語としての英語（EFL）を学ぶ大学生のリスニング理解スキルを育成するために、モバイルオーディオブック（MABs）の統合を提案する。これは、オーディオカセットやポッドキャストからモバイルアプリに至るまで、様々な音声技術を言語学習に用いてきた歴史の上に立っている。スマートフォンの普及とアクセスしやすいオーディオブックプラットフォーム（例：Google Play、Apple Store）は、教室外での体系的なリスニング指導にとって、十分に活用されていない重要な機会を提供している。
2. モバイルオーディオブック（MABs）の利点
MABsはEFL学習者にいくつかの明確な利点を提供する：アクセシビリティ（いつでもどこでも学習可能）、本物の口頭表現やプロの朗読に触れる機会、読解困難のある学習者への支援、そして音声を通じて複雑な文学テキストをアクセス可能にする能力である。これらは多様な学習スタイルに対応し、目標言語に対する学生の動機付けと関与を大幅に高めることができる。
3. MABsの入手と選定
教育者にとって重要なステップは、適切なMABリソースを特定し、キュレーションすることである。
3.1 MABsの入手先
主な入手先には、公式アプリストア（Google Play、Apple App Store）、専用オーディオブックプラットフォーム（Audible、LibriVox）、教育系出版社のウェブサイトが含まれる。様々なジャンルと習熟度レベルにわたる膨大なライブラリが存在する。
3.2 検索戦略
効果的な検索には、特定のキーワード（例：「graded reader audiobook」、「EFL listening」）の使用、言語、カテゴリ、ユーザー評価によるフィルタリング、言語学習者向けにキュレーションされたリストの探索が含まれる。
3.3 選定基準
選定のための主要な基準は以下の通り：
- 言語的適切性： 学生の習熟度レベルとの整合性（CEFRガイドラインが有用）。
- 内容の関連性： 学習者層にとっての興味と文化的関連性。
- 朗読の質： ナレーターの明瞭さ、ペース、表現力。
- 技術的特徴： 再生コントロール（速度調整、ブックマーク）の可用性。
- 教育的サポート： 付随するテキストや理解度確認活動の可用性。
3.4 MABsの例
例としては、簡易化/段階別リーダー（例：Penguin Readers、Oxford Bookworms）から、オーディオ形式で入手可能な完全長の小説やノンフィクション作品まで多岐にわたる。LibriVoxのようなプラットフォームは、パブリックドメインの古典作品を無料で提供している。
4. スキル育成フレームワーク
4.1 リスニング理解スキル
MABsは、ミクロスキル（音素弁別、強勢/イントネーションの認識）とマクロスキル（主旨の理解、意味の推測、物語構造の追跡）を育成することができる。
4.2 文学的鑑賞スキル
理解を超えて、MABsは、特にナレーターが個別の声や劇的な解釈を用いる場合、キャラクターの発達、プロット、ユーモア、スタイルといった文学的要素の鑑賞を促進する。
5. 教育的実践
5.1 指導と学習の段階
体系的なアプローチが推奨される：
- リスニング前： スキーマの活性化、重要語彙の導入、リスニングの目的設定。
- リスニング中： 特定のタスクを伴うガイド付きリスニング。
- リスニング後： 理解度確認、議論、拡張活動（例：ロールプレイ、要約作成）。
5.2 MABsのためのタスクタイプ
タスクは多様であるべき：全体的理解（多肢選択、正誤問題）、詳細リスニング（穴埋め、情報転換）、推論タスク（予測、口調の解釈）、産出的タスク（要約、批評的レビュー）。
6. 評価とアセスメント
評価は多面的であるべきであり、形成的評価（小テスト、議論への参加）と総括的評価（リスニングテスト、プロジェクトワーク）を含む。自己評価とピアフィードバックも、学習者の自律性を促進するために価値がある。
7. 学生の認識と影響
本稿は、MABsの有用性と楽しさに関する学生の認識、およびリスニング理解テストのスコアへの測定可能な影響を調査する必要性を指摘している。肯定的な態度は、授業外での練習の増加と相関している。
8. 効果的な活用のための提言
主要な提言は以下の通り：MABsを付加的なものではなく、体系的にカリキュラムに統合すること；学習のためのMABsの使用方法に関する明確なガイダンスとトレーニングを提供すること；経験を共有するための支援的なコミュニティを作ること；学生の間で内省的実践を奨励すること。
9. 独自分析と専門家による批評
核心的洞察： Al-Jarfの研究は、画期的な発見というよりも、オーディオブックという媒体に対する既存のモバイル支援言語学習（MALL）の原則を、時宜を得た体系的な形で再構築したものである。その真の価値は、アプリストアに溺れながらも教育的な方向性に飢えている教育者に、切実に必要とされている実践的フレームワークを提供することにある。これはMABsが機能することを証明することではない（Whittingham et al., 2013のメタ分析など、リテラシー支援における音声の数十年にわたる研究が既にその効果を示唆している）— それは、特殊な支援技術から主流の消費者製品へと飛躍したツールに対する「ハウツー」マニュアルを提供することである。
論理的流れ： 本論文は古典的なインストラクショナルデザインの論理に従っている：ツールの正当化、ツールの入手、ツールの選定、指導の計画、指導の実行、成果の評価。この直線的で教師中心の流れは、実践者にとって最大の強みであるが、同時に微妙な欠陥でもある。これは暗黙のうちに学習者を、キュレーションされたMAB体験の受け手として位置づけ、モバイル技術が独自に可能にする主体性と自己調整学習戦略を過小評価する可能性がある。これは、Stockwell & Hubbard (2013) のような成功したMALLフレームワークで強く強調されている点である。
強みと欠点： 主要な強みは包括性と実用性である。10項目のアジェンダは指導サイクル全体をカバーしている。しかし、欠点は、*モバイル*という側面に特化した経験的な裏付けの欠如である。多く引用されている研究（例：Chang & Millett, 2016）は、音声支援リーディングに焦点を当てており、純粋なモバイルリスニングではない。本論文は、移動性の内在的アフォーダンス（アクセシビリティ、個人化）に依拠しているが、*モバイル*なリスニング環境（例：通勤中、運動中）が、静止したリスニングと比較して質的に異なる理解度の向上や関与をもたらすという、確固たる引用可能な証拠を伴っていない。媒体（オーディオブック）と配信プラットフォーム（モバイル）を混同するリスクがある。
実践可能な洞察： カリキュラム設計者にとって、本論文はすぐに使えるチェックリストである。次の重要なステップは、フレームワークを超えてそれを手段化することである。これは、セクション(viii)で示唆されている具体的なルーブリックと評価ツールを開発し、検証することを意味する。さらに、学生の認識を研究するという提言は、モバイル使用の*文脈*に焦点を当てて留意されなければならない。研究者は、人間とコンピュータの相互作用（HCI）のような分野の方法論を採用し、学生が聴くかどうかだけでなく、いつ、どこで、どのような条件下で最もよく関与するかを追跡し、画一的なアドバイスを超えた、データに基づく最適なMAB統合モデルを作成すべきである。
10. 技術的フレームワークと数理モデリング
PDFは正式なアルゴリズムを提示していないが、教育的プロセスは抽象化できる。MAB統合の核心は適応学習ループである。与えられたMABセグメントに対して学生が理解度閾値 $C_t$ を達成する確率を、変数の関数としてモデル化できる：
$P(C_t) = f(L_s, V_d, N_q, R_p, T_a)$
ここで：
$L_s$ = 学生のリスニング習熟度レベル
$V_d$ = 音声セグメントの語彙密度
$N_q$ = 朗読の質（明瞭さ、速度）
$R_p$ = リスニング前のサポート/活性化の有無
$T_a$ = 要求される注意タスクのタイプ（全体的 vs 詳細）
教育者の役割は、制御可能な変数（$V_d$ は選定を通じて、$R_p$ と $T_a$ はタスク設計を通じて）を操作し、各 $L_s$ に対して $P(C_t)$ を最大化することである。これは、聴覚入力のために操作化された、ヴィゴツキーの発達の最近接領域に合致する。
11. 実験結果とデータ可視化
本稿は、MABsの効果に関する調査を予告している。仮説的な実験デザインとその可視化された結果は、影響を理解するために重要である。
仮説的デザイン： EFL新入生を対象とした事前テスト/事後テストの統制群デザイン。実験群は、本論文の段階に従った12週間の補助的MABプログラムに従事し、統制群は標準的な指導を継続する。主な従属変数は、標準化されたリスニング理解テスト（例：TOEFL iBTリスニングセクション）のスコアである。二次的尺度は、学習態度と習慣に関する自己報告調査である。
チャート説明（仮説的）： グループ化された棒グラフが核心的な発見を効果的に表示するだろう。x軸には「事前テスト」と「事後テスト」の2つのクラスターがある。各クラスター内で、2本の棒が「統制群」と「MAB実験群」を表す。y軸は平均テストスコア（0-30）を示す。重要な可視化は、事前テストでは両群の棒の高さがほぼ同じであることを示す。事後テストでは、統制群の棒はわずかな上昇（例：+2点）を示し、MAB実験群の棒は大幅に大きな上昇（例：+7点）を示す。この明確な差が、MAB介入の付加効果を視覚的に実証する。折れ線グラフのオーバーレイで、週ごとの授業外リスニング時間（自己報告）を追跡し、実験群の方がより急峻な正の傾きを示すことが描かれる。
12. 分析フレームワーク：事例研究
シナリオ： 指導者が、中級（B1）の学生が教科書の対話では不足している、英語小説における微妙なキャラクターの感情を理解するのを助けるためにMABsを使用することを目指す。
フレームワークの適用：
- ツール選定（セクション3）： 明確なキャラクターボイスを持つ短編小説を選ぶ（例：Stephen Fryが朗読するシャーロック・ホームズの物語）。基準：B1-B2レベル、劇的な幅を持つプロの朗読。
- スキル目標設定（セクション4.2）： 文学的鑑賞スキルを明示的に目標とする：「口調、ピッチ、話すペースからキャラクターの感情と態度を推測する。」
- タスク設計（セクション5.2）：
- リスニング前： 感情に関する語彙（例：懐疑的、驚愕した、憤慨した）を導入。キャラクターの静止画を見せ、性格を予測させる。
- リスニング中（タスク）： 3つの重要な対話抜粋を含むチャートを提供する。それぞれについて、学生はナレーターが伝える主な感情をマークし、1つの音声の手がかり（例：「声が速く高くなった」）を記録する。
- リスニング後： グループでチャートを比較する。討論：「ホームズは本当に驚いていたのか、それとも単にふりをしていたのか？朗読のどこがあなたの見解を支持するか？」
- 評価（セクション6）： 形成的評価：感情チャートの正確さ。総括的評価：その後のテストで、学生は新しい音声クリップを聴き、話者の可能性のある感情を説明し、記述された音声の手がかりで正当化する短い段落を書く。
この事例は、一般的な「リスニング練習」を超えて、本論文のフレームワークを用いた、目標を絞った評価可能なスキル育成へと移行する。
13. 将来の応用と研究の方向性
EFLにおけるMABsの将来は、より大きな個人化とデータ統合にある：
- AI駆動型適応MABs： 学習者のパフォーマンスに基づいて、朗読速度を動的に調整したり、簡単な語彙説明を挿入したり、簡略化された言い換えをリアルタイムで提供したりするプラットフォーム。Chen et al. (2021) が探求した適応型読書技術と類似。
- 没入型およびインタラクティブオーディオ： 空間オーディオやインタラクティブストーリーテリング形式（例：選択肢式アドベンチャーオーディオブック）を活用して、関与を高め、実世界のリスニングシナリオをシミュレートする。
- 学習分析ダッシュボード： クラス全体のリスニングパターン、困難な箇所、個人の進捗状況を示すダッシュボードを指導者に提供するMABアプリ。これにより、対象を絞った介入が可能になる。
- クロスモーダル学習研究： 音声とテキストの最適な相互作用（例：いつ同時テキストを提供するか、いつ提供しないか）を、異なる学習目標のために体系的に調査する。Chang & Millettのような研究者の仕事に基づく。
- 語用論と社会言語学への焦点： 多様な方言、言語使用域、社会語用論的文脈を特徴とするMABsを使用して、実世界のコミュニケーションに不可欠でありながら標準カリキュラムではしばしば無視されるリスニングスキルを教える。
14. 参考文献
- Al-Jarf, R. (2021). Mobile Audiobooks, Listening Comprehension and EFL College Students. International Journal of Research - GRANTHAALAYAH, 9(4), 410-423.
- Chang, A. C., & Millett, S. (2016). Developing L2 listening fluency through extended listening-focused activities in an extensive listening programme. RELC Journal, 47(3), 349–362.
- Chen, C. M., Liu, H., & Huang, H. B. (2021). Effects of an augmented reality-based learning system on students' learning achievements and motivations in a English vocabulary learning course. Journal of Educational Technology & Society, 24(1), 213-226.
- Stockwell, G., & Hubbard, P. (2013). Some emerging principles for mobile-assisted language learning. The International Research Foundation for English Language Education. Retrieved from http://www.tirfonline.org
- Whittingham, J., Huffman, S., Christensen, R., & McAllister, T. (2013). Use of Audiobooks in a School Library and Positive Effects of Struggling Readers' Participation in a Library-Sponsored Audiobook Club. School Library Research, 16.
- Zhu, J., Park, T., Isola, P., & Efros, A. A. (2017). Unpaired image-to-image translation using cycle-consistent adversarial networks. Proceedings of the IEEE international conference on computer vision (pp. 2223-2232). (明確で再利用可能なモデルを提供することで分野を前進させたフレームワーク論文の例として引用—Al-JarfがMAB教育学に対して試みていることに類似)。